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上半身が馬で下半身が魚の生き物は・・・。

ミュージカル・シールと呼ばれるオルゴールがあります。
世界最初と言われているオルゴールも、シールの中に組み込まれていました。
シールとは手紙に封をする時に垂らした蝋の上からマークする、イニシャルや紋章などが彫られている印章(ハンコ)のことです。

ファイル 320-1.gif (蝋のイニシャルはシールのイメージです。一緒に映っているミュージカル・シールで押したものではありません。)

当時の貴族たちはシールに宝石や彫刻などを施して、腰からぶら下げてアクセサリーとして持ち歩いていたようです。
オルゴールが入っているシールはハンコの実用品というよりも、アクセサリーとして使われていたようです。

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最近、博物館にふたつのミュージカル・シールが仲間入りしました。
上の写真の左から2個がそれです。
美しい金細工の装飾は見ているだけでも楽しめます。
上の留め金がゼンマイで、台につけられたスイッチを入れると20秒程の演奏をしてくれます。

この展示品それぞれを区別するために名前を付けようと思ったのですが、あら大変。
真ん中の細工、なんと名付けて良いのか分りません。
上半身が馬で下半身が魚の生き物って・・・?

ネットで「上半身が馬 下半身が魚」で検索したら、いました、いました。
その名もケートス。
『Ketos(ラテン語形はCetus):ギリシア神話などに登場する海の怪物でその姿は伝承によって異なる。またくじら座のこと』だそうです。

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ギリシア神話ででてくるケートスやくじら座のケートスは、本当にくじらのオバケのようで可愛くないものばかり。
なかなかうちの子と同じケートスに出会えませんでしたが、アメリカ、ワシントンのICC(Interstate Commerce Commission)ビルの壁に彫刻されているものが上半身が馬で下半身が魚だとゆうことは突きとめました。

ファイル 320-5.gif THE EYE OF SILOAM AND THE INTERSTATE COMMERCE COMMISSIONより

子どものための・・・

明後日から「特別クリスマスコンサート」が始まります。

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今年はお子様のためのプログラムを設けました。初めての試みです。全15回のプログラムの内、2回がお子様向けの「親子コンサート」となります。

親子コンサートでは通常のコンサートに比べ、オートマタ(からくり人形)や自動演奏楽器の実演などを増やしたり、自動ピアノの演奏時にスライドでイメージ映像を映したり、トナカイが解説したり、お子様が退屈しないよう工夫しています。

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ちょうど今年、シューマン生誕200年の記念の年で、そのシューマン作曲の曲に「子どものためのアルバム」という曲があります。この曲は1848年にシューマンが愛娘のために作曲した曲で、後に曲を加えて1冊の曲集になった全54曲の小品集です。

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当初「クリスマスアルバム」と呼ばれていたこのアルバム。親子クリスマスコンサートにぴったりだと思い、自動ピアノで演奏する予定です。

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「親子コンサート」で演奏するのは54曲の中の4曲。(10番 楽しき農夫 6番 あわれな孤児 8番 勇敢な騎士 12番 サンタクロース)

聴いていて不思議な気がしたのが「サンタクロース」という曲です。ちっとも陽気な感じがしないのです。ちょっと恐い印象の曲には訳がありました。

シューマンと言えば、ドイツの作曲家。このサンタクロースは約150年前のドイツのサンタクロースの曲なのです。ドイツでは,12月5日または6日の聖ニコラオスの日の夕べに、サンタがやってきます。聖ニコラオスとはサンタクロースの起源とも言われているキリスト教の司教です。

日本のサンタとの最大の違いは、このサンタさんひとりではなく、ルプレヒトという従者とともにやってきます。良い子にはサンタがプレゼントを悪い子にはムチを持ったルプレヒトがお仕置きをするのだそうです。従者ルプレヒトは黒いサンタとも呼ばれているそうです。年の瀬に来訪して、悪い子にお仕置きするなんて、日本のなまはげにそっくりです。

ファイル 303-5.gif 従者ルプレヒト 写真:Dr Hans Trapp 1953 z Wintzene (Elsass)

こんな恐い従者を連れてくるならば、サンタが楽しみなような、ちょっと恐いような・・・、あんな曲調でも納得できます。

親子コンサートの料金はお一人様2000円で、ティータイム無し、お土産のお菓子付きとなります。12月19日の「親子コンサート」は締切りとなりましたが、23日の11時からの会には多少空きがあります。4歳以上で参加できます。お子様やお孫さんと一緒にクリスマスコンサートはいかがでしょうか?

特別クリスマスコンサートの詳細はこちらから  新しいウィンドウで開きます。

「天界から聴こえてくる澄んだ音」って?

今日は10月に演奏会コースで現在演奏中の大型のシリンダー・オルゴールをご紹介します。
1階の音楽ホールの左後の方に置いてあります。

ファイル 285-1.gif オーケストラル・ボックス・インターチェンジャブル 1890年代 スイス製

名前に注目です。
このオルゴールが持つ2つの大きな特徴が名前になっています。

まずはオーケストラル・ボックス。
このオルゴールには、オルゴールの他にベル、タイコ、カスタネットの打楽器と、リードオルガンがついています。
様々な楽器の演奏が楽しめ、まるでオーケストラのようなだと、この名前がつきました。

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中でもオルガンの音色が印象的です。
オルガンを演奏するために、ケースの底の見えないところにフイゴが組み込まれています。
オルゴールを動かすゼンマイでフイゴも動かし、フイゴからの風でリードのオルガンを鳴らします。
当時、オルゴールに組み込まれたオルガンの音色には『ボワ・セレステ Voix céleste』という名前がつけられました。
Voix célesteを訳すと、「この世のものと思えないほど美しい天上の音楽」となりますが・・・。
こんな名前がついたオルゴール、どんな音色か聴きたくなってきませんか?

もう一つ特長は、インターチェンジャブルです。
オルゴールが置かれたテーブルの引き出しを開けると・・・。

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シリンダーが入っています。
8曲収録されたシリンダーが全部で4本。
シリンダーは交換することができ(インターチェンジャブル)、全部で32曲も楽しむことができるのです。
ただしシリンダー交換の時は気が重くなります。
何故なら、シリンダーは意外と重く(約2.7kg)、シリンダーに植えられた繊細なピンや櫛歯を傷つけないように、
背伸びをしながら、プルプルと手を震わせながらの、大変な作業となるからです。
(シリンダー交換が大変だからディスク・オルゴールが発明されたんだ!と交換の度に思ってしまいます。)

「天上の音楽」が100年前の時を経て聞こえてきます。

演奏会コースはご予約なしでお楽しみいただけます。午後1時か3時までにお越し下さいませ。
演奏時間 13:00~ 15:00~(所要時間約50分)
演奏会コースのご紹介へ  新しいウィンドウで開きます。

「草」に込められた想い。

来週、9月14日 火曜日14時から『からくり仕掛けの人形-オートマタ展』が始まります。
企画展開催に向けて、実演するオートマタのメンテナンスを行っています。
メンテナンスを終えたオートマタは、スタッフに元気になった姿を披露するのですが・・・。

ファイル 277-1.gif 猿のヴァイオリン弾き 1880年 フランス製

ガラスのドームの中の猿が、オルゴールの演奏と共に頭、左手、口を動かし、ヴァイオリンを弾くオートマタです。

動きもさることながら、その作りも見事です。
シルクの衣装、口を開いたときだけ見える小さな歯、ガラスドームに描かれた景色、アーチ型に飾られた草花。

しかし、今日ご紹介したいのは、猿の足元に生えている「草」なのです。(このオートマタとのお付き合いはもう何年にもなるのですが、いつもは先にご紹介した「動き」や「見事な作り」に目を奪われてしまっていて、今日初めて気がついたことです。)

ファイル 277-2.gif  ファイル 277-3.gif

ガラスドームが外されていた為に気がつきました。なんと地面に生えた草が「鳥の羽」なのです。緑色の小さな鳥がそよそよと揺れています。それも一種類ではなく、何種類かの鳥の羽が使われています。

確かに、羽根の質感が草の柔らさを見事に表現しています。草にまで高価な鳥の羽を使うこだわりに、本当に驚いてしまったのです。
う~ん、当時のオートマタは本当に奥が深い。

『からくり仕掛けの人形-オートマタ展』は約30体のオートマタの動きを間近で見ることができます。
人形の動きだけでなく、服装、装飾、顔など、細かな箇所にも目を向けて、様々なオートマタの魅力を堪能してください。

企画展は博物館コースでご案内します。
(但し、初日の11時のコースは展示替えのため締切りです。)
博物館コース(11時~ 14時~ 16時~ 予約制)
博物館コースのご案内へ  新しいウィンドウで開きます。

メカニカル・ダルシマー

前回のブログでご紹介したメカニカル・ダルシマー。現在、博物館コースの企画展でご紹介している自動ピアノです。

YouTubeでメカニカル・ダルシマーの演奏で楽しく踊る場面の動画を見つけました。どうやら映画の一場面のようです。
すごく楽しそう。バレルの大きさを想像すると、あんなに長い演奏は無理そうですが・・・。
また持ち運んで演奏していた様子も。

オルゴールの重さ

昔、江戸東京博物館に行ったときに千両箱の重さを体験出来るコーナーがありました。持ってみるとこれは重い・・・。ネズミ小僧にいくら力があったって、こんな物抱えて屋根から屋根へ飛び移って、貧しい人達に小判配ったりなんて出来ないよ・・・と思ったものです。

博物館のスタッフにとっては当たり前のオルゴールの重さ。実際に持っていただければ良いのですが、そうもいきません。今日はオルゴールの重さについて、ご紹介してみることにしました。

1860年頃に製作された、スイス・ニコール・フレール社の6曲入りのこのオルゴールは、アンティーク・オルゴールではよくあるタイプの基本的な?オルゴールです。サイズは幅46cm、高さ13cm、奥行き16cm。
さて、このオルゴールの重量は約6㎏。約6Kgといえば、2L入りの大きなペットボトル3本分位です。

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350mlの缶ビールなら約17本分の重さです。皆さんがご存じのオルゴールに比べればやはり重いといえるでしょう。

何でこんなに重いのか?
アンティークのオルゴールは美しい音色を奏でるために、大きく、多くの部品が使われています。

部品の中でも一番重いのはベットプレートと呼ばれる、金属の台座です。この台座の素材によって音色が変わると言われています。

ファイル 253-3.gif 台座(ベットプレート) 約1675g
 
 
二番目に重かったのがオルゴールの音楽信号となるピンが埋め込まれたシリンダーです。金属の筒の中は空洞ではなく、実はセメントと呼ばれる、松脂と煉瓦の粉を混ぜ合わせたものが、流し込まれています。そんなもの流し込むから重くなってしまうのですが、このセメントには2つの重要な役割があります。ピンを固定することと、音を良くするための効果があるのです。セメントの量が少ないと音色が悪くなってしまうといいます。同じくらいサイズのディスク・オルゴールに比べ、シリンダー・オルゴールの方が重いのも頷けます。

ファイル 253-4.gif シリンダー 約990g
 
次にオルゴールの音を出す部分の櫛歯(650g)、ゼンマイ(410g)と続きます。その他小さな部品がいっぱいあって、木のケースとあわせると約6kg(6000g)となるわけです。

ファイル 253-5.gif シリンダー・オルゴールの分解

収録曲が多くシリンダーが大きくなったり、音域が更に広く櫛歯の本数が増したりすると、オルゴールも大きくなり重さも増します。また、オルゴールの他に、ベルや太鼓、オルガン等の楽器が付いたりしたら、ひとりではちょっと運べない重さになります。

企画展が変わるたびに、スタッフはこれらのオルゴールの入れ替えを行っていますので、見た目とは裏腹に(?)力自慢のスタッフが揃っています。

ドラムを鳴らすおじさんたち

現在、1F音楽ホールの演奏会コースで演奏しているシリンダー・オルゴールの『マンダリン・ボックス』(1880年頃 スイス製)。
ベルとドラムがオルゴールと合奏しますが、6個のベルのうち4個はふたりのおじさんが手を動かして鳴らし、残りの2個は蜂が鳴らしています。
では、このおじさんたちはどのようにして動いているのでしょうか?

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マンダリン・ボックスの櫛歯を見てみると、上の写真のように3枚セットされています。左右はオルゴール用の櫛歯で、中央はベルとドラム用の櫛歯です。
どこが違うかというと、左右の櫛歯は長さが少しずつ違っています。これは音の高さを変えるためです。
一方、中央の櫛歯は長さが同じです。打楽器を鳴らす櫛歯はオルゴールの音を出さないので、長さを変える必要がないのです。ここの櫛歯を弾くと連動してベルやドラムのバチが動いて音が出ます。おじさんの手や首はベルを鳴らす時に一緒に動いています。

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ところでこのおじさんたち、どこの国の人に見えますか?
実は中国人です。中国の宮廷官吏をマンダリンと呼ぶことから、このようなオルゴールはマンダリン・ボックスという名が付けられました。
よく南米の人に間違えられますが、当時のスイスではこのようなイメージだったのでしょう。

ピアノのメンテナンス

演奏の合間をぬって、博物館のメカニックがピアノのメンテナンスをしています。

ファイル 236-1.gif スタインウェイ・デュオ・アート

先週、調律を行いましたが、自動ピアノには日々のメンテナンスも必要です。毎週でも行いたいことは、自動ピアノのトラッカーバーの、バルブに詰まった埃を取り除くことです。

ファイル 236-2.gif 作業中

トラッカーバーとはピアノの正面に組み込まれている、ミュージック・ロールの孔を読み取る装置です。リプロディーシング・ピアノと呼ばれる、ピアニストの演奏を再現する自動ピアノのトラッカーバーには、ピアノの鍵盤に対応する80個の孔(鍵盤の数は88個)と、鍵盤を叩く強さを制御する孔、ペダリング制御の孔等があります。この上を音楽信号となる孔の開いたロールが通過します。トラッカーバーの孔と、ロール孔が重なったときに、孔から空気が吸引され、その空気の量をコントロールして演奏をするのです。

ファイル 236-3.gif トラッカーバー

ファイル 236-4.gif トラッカーバーの上をロールが通過しているところ

トラッカーバーの孔が詰まると、空気の通りが悪くなり、演奏の再現が正確に行われなくなってしまいます。そこで、専用の器具を使って埃などを吸い取っていきます。

ファイル 236-5.gif 埃

細かい埃がこんなにたまっていました。実は、演奏しなければこんなに埃はたまりません。常に空気を吸引する機構に問題があります。空気中の埃を吸い取ってしまうんです。またミュージック・ロールは紙に孔をあけて作られるのですが、この孔の切り口には細かい紙の切りくずが付いていて、この紙くずも常に吸い取られて、孔に詰まっていきます。

トラッカーバーの掃除用の専用器具は小さなポンプのようなものです。シュポシュポと埃を吸い取る単純な物です。一気に掃除機で吸い取りたいところなのですが、掃除機では吸引力が強すぎて、中の機構を壊してしまう可能性があるようです。

自動ピアノについてはトップページの「オルゴールについて」→「自動演奏楽器 自動ピアノ」で詳しくご説明しています。
自動ピアノについての詳細  新しいウィンドウで開きます。

カリヨンの鐘

先週、中・高生向けの本を執筆中の方から「ビックベンの奏でる楽譜を送って」とのお問い合わせがありました。ビックベンとは、ロンドンのウェストミンスター宮殿(現在は英国の国会議事堂)に併設された時計台の鐘の愛称です。「ビックベン」とオルゴールと何の関係があるの?と思われるかもしれませんが、この鐘とオルゴールとは深い関係があります。
  

ファイル 223-1.gif Wikipediaより
 
 
時計塔につけられた時を告げる鐘は「カリヨン」と呼ばれていますが、このカリヨンがオルゴールの起源といわれています。
 
 
ファイル 223-2.gif Wikipediaより
 
 
ビックベンにも上の画像のような大きな鐘が付けられています。カリヨンなんて聞いたこともないと、おっしゃる方が多いのですが、ビックベンが奏でるメロディを聞けば、誰しもがうなずき、カリヨンを身近に感じてしまうでしょう。学校で「キーンコーンカーンコーン」と鳴るチャイムのメロディこそ、ビックベンのメロディなのです。この曲には「ウェストミンスターの鐘」という正式名称もあります。

音を聴きたい方、楽譜をご覧になりたい方はWikipediaのWestminster Quartersをご覧になってみてください。
Wikipedia Westminster Quarters」へ (日本語はこちら  日本語には楽譜もメロディもありません。)  新しいウィンドウで開きます。

ファイル 223-3.gif ファイル 223-4.gif

博物館の近所には東京カテドラル聖マリア大聖堂があって、ここにもカリヨンがあります。昔は毎週日曜日になると、カテドラルのカリヨンが鳴り、礼拝の時間を知らせていたのですが、最近は鳴っていないようです。問い合わせてみたところ「サビてしまい危険なので、15年程前から鳴らしていません。現在はCDで鳴らしています。」とのこと。ちょっと寂しい気がします。

ロシアのストリート・オルガン 続きのお話

4月16日のブログでご紹介したロシアのストリート・オルガンについての追記です。

ロシアのオデッサで作られたと書きましたが、正確にはオデッサはウクライナの都市で、オルガンに書かれていたのもロシア語ではなくウクライナ語だというご指摘をいただきました。
では、ロシアのオルガンではなく、ウクライナのオルガンというべきかと思いましたが、このオルガンが作られた100年前のウクライナはロシア帝国の支配下にあったので、『ロシアのオルガン』といっても間違いではないようです。

『Barrel Organ(Arthur W.J.G.Ord-Hume著)』にこのオルガンと同じような写真が掲載されていました。前面は似ていますが、側面と背面の象嵌は違う絵柄になっています。
 ファイル 222-1.gif前面  ファイル 222-2.gif背面  ファイル 222-3.gif側面

もう1台、ベラスケスのマルガリータによく似た絵が描かれたオルガンも載っていました。いずれも『ネチューダ』というメーカー名とその住所が書かれているので、同社のオルガンです。いろいろなデザインがあったようです。
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アンティーク・オルゴールや自動楽器についての情報にはまだ曖昧なことがあり、以前に書かれた本とは異なる新しい情報が出てくることがあります。博物館の収蔵品についても今後正しい情報がわかれば、その都度訂正していきたいと思います。