私:「なんだかこの曲のテンポ、ゆっくり過ぎませんか?」
マネージャー:「そうですか」
すると、曲のテンポを調整するレバーを動かして、
シリンダーの回転数を上げ、再生速度を早めてくれた。
私:「う~ん。やっぱりまだゆっくりですよ」
マネージャー:「えぇ、だってこのレバーを見てもわかる通り、これでも早い方だよ」
このときも、納得のいかない顔で
マネージャーを見てしまったのである。
すると、マネージャーが再び口を開いた。
「だって、100年前の人たちが聞いていたものですよ。
当時はもっとゆっくり時間が流れていたんだから」
私:「うわぁ~」
私は失礼を顧みずに、
オルゴールの前で
しかも上司に向かってついつい叫んでしまった。
不覚にも、私は自分の勝手な時間感覚で、
オルゴールと向き合い、演奏を聴いていたのだ。
目の前にある機械は、
100年以上も前に作られたものばかり。
言わずもがな、当時と現代とでは時間の流れが違う。
そういえば、以前から横に並んで一緒に道を歩いていると、
「ちょっと、歩くの早いよ」
なんてしばしば言われていることを思い出した。
さらに、とりたてて急いでもないのに、
信号がチカチカすれば、なぜか走り出す。
エスカレーターもなぜか右側を駆けていく。
要するに、私の生活スタイルは、
現代人のせっかちを代表しているのである。
”仕事はテキパキ正確で、丁寧に。
オルゴールを扱うときは、100年前の時間感覚に”
こんなスローガンを自分に掲げようと思った。
ついでに、1Fホールにあるオルゴールの中で、
速度調整用のレバーが付いている機種を見て回った。
主にディスクオルゴールで確認できた。
すると、今はどのレバーも"SLOW"に傾いていた。
これらは、とくに遅いと感じることはない。
これまた気になって、なぜだか聞いてみた。
ゼンマイの巻き具合などオルゴールの性質に加えて、
テンポがゆっくりなクリスマスや讃美歌の曲が
多くあることに由来しているようだ。
変わらない時間の流れと、変わる時間感覚。
ふと、クリスマスカードや年賀状が頭をよぎった。
今年もキーボードではなく、手書きにしようと思う。
(新)