ハードウェアを販売するにあたり、重要な鍵となるのはソフトウェアです。使用されるソフトによりその売上は大きく左右されるでしょう。それはコンピュータのソフトやゲームソフトまたCD、MD、DVD等、全ての分野に共通して言えることです。そして、これは現代に限ったことではなく100年以上前のオルゴールの世界でもソフトの重要性は同様のことでした。
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初期のオルゴールは1台の機械で1曲しか演奏することができませんでした。1815年頃のスイスに数社のシリンダー・オルゴールのメーカーが創業すると、各社は競って1台の機械に収録される曲数を増やす工夫を行ないました。1本のシリンダーで複数の曲を演奏するには、櫛歯の間隔を広げ、歯の間に収録曲分のピンを植え、シリンダーを数ミリ横にずらして曲の変換を行います。1本のシリンダーに多くの曲を収録するためには櫛歯の先端を細く尖らせ、櫛歯自体の間隔を広くする工夫がなされました。
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しかし櫛歯の間隔を広くする方法は、同じ大きさの機械の場合には櫛歯の本数が減ってしまうという弱点も併せ持っていました。櫛歯の本数を減らすということは、ピアノで言えば鍵盤を減らしていくのと同様で、音楽表現が乏しくなってしまいます。こうした様々な制限を抱えながらも、各社は充実したソフトを持つオルゴールを開発しました。
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収録曲数を増やす工夫は他にもあります。櫛歯の数を減らさずに曲数を増やす為に、シリンダーの直径を太くして半回転で1曲を演奏するオルゴールが登場し、ファット(太った)シリンダーと名付けられました。また、シリンダーを交換して曲数を増やす方法も開発されました。しかし数ミリ単位で曲を変換する繊細なシリンダーは重量も重く、交換するのには細心の注意が必要でした。そこで、ワンタッチでシリンダーが交換できる機種も誕生します。リボルバー(回転式連発)拳銃と同様にシリンダーをあらかじめオルゴールの中に数本セットし回転させる方法です。左右にずれるシリンダーをしかも回転させるのですから、機械の調整が難しく、複雑な機構の為になおさら高価になってしまいました。
もとよりシリンダーのピンは1本1本を人の手で植えていく作業でしたので、その製造方法のため価格を押さえることができず、資本家階級(ブルジョア)のものであり、一般大衆の手に届くものではありませんでした。ましてや曲数を増やす事は音楽信号であるピンの数を増やす事であり、また機構が複雑になる為に、収録曲数の多いシリンダーほど価格が上がってしまうのです。1870年代から1880年代にかけて、最盛期をむかえていたシリンダー・オルゴールですが、そのソフト作りに最大の欠点がありました。そして、その欠点を補うように、ディスク・オルゴールが誕生するのです。
(オルゴールのソフトウェア 2へ続く)
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Update Mar. 2009 |