自動ピアノの起源は16世紀中頃に遡ります。バレルを利用したスピネット(小型チェンバロ)が存在したという記録があります。バレルとは木の筒に曲のデータとなるピンをいくつも植え込んだもので、楽器を自動演奏するためのソフトウェアです。ピンがキーを持ち上げ、キーに連動したハンマーを動かしピアノの弦を叩きます。バレルはカリヨンや音楽時計、自動オルガンなどにも使われています。
|
|
|
バレル・ピアノが商品化され、普及したのは19世紀になってからです。鍵盤のついていないものが多く、手廻しやゼンマイで動きます。バレルピアノは1曲の演奏時間が短く、バレルにピンを植えるのも手作業のため手間が掛かるため、後に登場するロールペーパーを音楽信号とした自動ピアノほど、大量に普及する状態ではありませんでした。小型のバレルピアノは街に持ち出され演奏していた為にストリート・ピアノとも呼ばれました。
|
1842年に厚紙に孔をあけて音楽信号とする穿孔紙を使用した自動ピアノが考案されます。厚紙の孔にキーがかかり、キーに連動した弦を叩く仕組みです。厚紙は経本のように折り曲げていたことからブックと呼ばれました。
1890年代になると、穿孔した紙のロールを曲譜にし、空気の吸引力でハンマーを作動させる自動ピアノが登場します。最初は足踏みオルガンのようにフイゴを踏むことで機械を動かしていましたが、後に電動となります。ロールに歌詞が書かれ、現代のカラオケのように楽しめるソングロールも販売されました。また、自動ピアノに様々な楽器を組み込んで賑やかな演奏が楽しめるニケロディオンは、コインを入れると演奏する音楽の自動販売機として活躍していました。これらの自動ピアノは1930年頃まで、多くのメーカーによって生産され活躍しました。
|
|
|
|
|
特筆すべきは完全な自動演奏装置といわれるリプロデューシング・ピアノでしょう。1904年、ドイツのエドウィン ウェルテと義兄のカール ボギッシュによって、画期的なピアノの自動演奏装置が作られました。リプロデューサーと呼ばれるその装置は、ピアニストの演奏を全く忠実に再現する事を可能にしました。 |
ウェルテ・ミニヨンと名付けられたこの再生方式はスタインウェイ、フォイリッヒ、イバッハなどの著名なピアノに組み込まれました。その後、数社がそれぞれ独自の方式の再生装置を開発する事になります。1913年にアメリカのピアノ・メーカー、エオリアン社がデュオ・アート方式を、アメリカンピアノ・カンパニー社がアンピコ方式を発表します。当時はまだ蓄音機の録音・再生の性能が優れていなかったため、多くの著名なピアニストたちはこの「完璧な自動演奏ピアノ」に自分の演奏を残すことを選びました。1924年、蓄音機が電気録音時代を迎え、レコード再生の忠実度が改良されるに従って、あまりにも高価なこのリプロデューシング・ピアノは競争力を失い、1930年代になると製造されなくなりました。
|
|
演奏の記録方法
演奏用のロールはマスター・ロールを製作しそれをコピーして作られます。マスター・ロールを製作するためには鍵盤の下部にごく薄いカーボン片を取り付け、キーを押し下げたときの電気信号を記録に取り、それに基づいてマスター・ロールの孔開けの作業を行っていたようです。しかし、当時、演奏の記録方法は各社秘密裏に行われ公表されていませんでしたので、その詳細な製造方法はいまだ明らかにされていません。
演奏の記録紙からマスター・ロールをつくる作業は、技巧的な難曲の長いものでは孔の数は10万以上にも及び、熟練者でさえ一カ月以上もかかる大変なものだったようです。このようにして作られたマスター・ロールは、演奏者が聴いて承認のサインをロールにしたうえでコピーされ製品化されました。 |
|
デュオ・アート (DUO ART)
1913年にエオリアン社が開発したリプロデューサーはデュオ・アート方式と呼ばれ、スタインウェイ等の著名なピアノに組み込まれました。ペダリング、アクセント、クレッシェンド、ディミヌエンド等の演奏技術までをも再現し演奏します。デュオ・アートと他のリプロデューサーとの決定的な違いは、伴奏部と旋律部が分かれてコントロールされているということでしょう。伴奏部と旋律部の二つの音をコントロールすることにより忠実度をあげる方式のために、ふたつの芸術=デュオ・アートの名が付けられました。 |
|
この自動演奏はピアノロールに開けられた孔を通る空気の動きによって行なわれます。電動のモーターが大きなフイゴを動かします。ピアノの正面にはトラッカー・バーと呼ばれるロールの孔を読み取る装置が組み込まれ、この上を孔の開いたロールが通過します。読み取り装置にはピアノの鍵盤に対応する80個の読取孔(下1点嬰ハから4点変イまで)(鍵盤の数は88個)と、鍵盤を叩く強さを制御する孔、ペダリング制御の孔等があります。読取孔の上を通過したロールの孔から吸引された空気は、ゴム管を通ってニューマチックと呼ばれる制御用のフイゴを動かします。このニューマチックで調整された空気が最終的にピアノのキーに対応するひとつひとつの小さなフイゴやペダルを制御するフイゴを動かし、演奏を行います。デュオ・アートでは、鍵盤を叩く強さを16段階で制御し、忠実度を高めています。 |
|