櫛歯の発展
オルゴールという言葉を辞書で調べると「胴内にある刺(とげ)をつけた円筒が、ぜんまい仕掛けで回転し、音階をつくっている櫛(くし)状の金属板をはじいて小曲をかなでる玩具。日本には江戸時代末期に渡来。自鳴琴。【国語大辞典(新装版)©小学館 1988】」とあります。この「音階をつくっている櫛状の金属板」は、髪を梳かす櫛の形をしているために「櫛歯(comb)」と呼ばれ、オルゴールの最も重要な部分である音源です。櫛歯の性能によりオルゴールの音色の良し悪しが決まってしまいます。オルゴールは櫛歯を弾いて音を出す自動演奏の楽器なのですから。
オルゴールの音源が櫛の形(櫛歯)になるまでにはその誕生から20年近い年月が必要でした。最初は音階の異なる鋼鉄の棒(歯(teeth))を、1本1本ネジでとめていました。その後2本を一組にしたペア・ティース、3本から5本を一組にしたセパレート・ティースと呼ばれるものへと変化していきます。初期のオルゴールはまだ音楽を鑑賞する道具としては性能が悪く、多くが時計の時報や装飾品の付属品として使用されていました。しかし、1814年、スイスのフランソワ ルクルトにより、一枚の鋼鉄の板に刻み目を入れ、歯の長短によって調律を行なう「櫛歯」が考案されるのです。
一本づつネジ止めした
シングル・ティース
2本を一組にネジ止めした
ペアティース
一枚の櫛歯
ワンピース・コーム
さらに、この櫛歯に画期的なふたつの改良が加えられます。ひとつは櫛歯の歯の裏におもりをつけて低い音を出す方法です。鋼鉄製の歯だけで魅力的な低音をだすためには、低音部の歯を極端に長くするか厚くするしかありません。しかし歯の裏におもりをつけることで、短い歯でもとても低い音を出すことができるようになったのです。おもりには加工のしやすい鉛(なまり)が使われました。鉛はやわらかく融点も低いために、増量や減量が容易でした。鉛のおもりは飛躍的に低音の音域を広げたばかりではなく、調律をも容易にしたのです。おもりの採用は現在でも高級オルゴールに用いられています。
もうひとつの改良はダンパーです。櫛歯は一度弾かれると振動を続けますが、振動中の歯に金属のピンが触れると、ジッという雑音(ダンパーノイズ)が生じます。そこで振動を止めるダンパーが必要となるのです。シリンダーに取り付けられたピンは歯を弾く前に、歯の下に取り付けられたダンパーを押し上げて振動を止めます。それまでのダンパーは水鳥の羽を用いていました。羽はすぐに消耗してしまうため、金属製の細いワイヤーを使用することで、丈夫でより優れた効果を得ることに成功したのです。
櫛歯の発明や改良は、製造を容易にし、オルゴールの音楽性を画期的に飛躍させたのです。この櫛歯の発展があってこそ、オルゴールは音楽を鑑賞する道具として活躍し、多くの人々に愛されたのです。
Update Mar. 2009
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Our Museum has closed its doors on May 15, 2013.