19世紀のフランスにひとつの文化が開化しました。それが紀元前より人類が夢を馳せた、自動で動く人形(オートマタ)です。その歴史は紀元前2世紀にも遡ります。アレクサンドリアの技術者ヘロンは、水力や火力を利用した機械仕掛けの自動人形劇を考案したといわれています。14世紀以降には、時計塔に組み込まれた人形や動物などが機械仕掛けで動き、時を告げていたのです。
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18世紀になると、二人の天才的なからくり人形師が登場します。フランスのジャック ド ヴォーカンソンとスイスのジャケ ドローです。このふたりが19世紀に繁栄したヨーロッパのオートマタ作りの祖といえるでしょう。ヴォーカンソンが作ったアヒルは羽や尾、首を動かし、水を飲み、穀物のえさをついばみ、消化をしてから排泄する動作をしたといわれています。(残念ながら散逸) また、ジャケ ドローは歴史に残る3体の代表的な人形を制作しました。絵を描く人形はマリー アントワネットの横顔など、5つの絵を描くことができます。字を書く人形はあらかじめ人形に組み込まれた機械をプログラミングすることで、アルファベットを自在に組み合わせ、名前や短い文章を書き、オルガンを弾く人形は両手の指を使って実際に鍵盤を弾くのです。今から200年以上も前に現代のロボットの礎となるこの精密なロボットが作られていたかと思うと、ただただ驚嘆するばかりです。
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19世紀になると市販用のオートマタ作りの工房が、時計宝飾産業の中心地であったフランスに続々と誕生します。フランス革命や産業革命により社会構造や産業構造が飛躍的に変化した19世紀。産業革命による機械技術の発展は、からくりの機構をより精密なものへと導き、尚且つ安価にしたのです。鉄道の開通や百貨店の出現により、人々は常に新しいものへの憧れを抱き、オートマタ職人達は、人々の趣味や嗜好の変化に敏感に対応し、時代に密接した製品を生み出していきます。
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そんな時代の申し子のように登場したオートマタは、時を同じくして最盛期を迎えていたゼンマイ仕掛けのオルゴールの動力を利用して人形を動かしました。当時ヨーロッパで盛んに行なわれていた博覧会が彼らの晴れ舞台となり、そこで栄誉ある賞を贈られた工房はたちまち売上を上げていきました。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、オートマタは最盛期を迎えます。
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当時流行したファッションを身に纏い、ジュモーやゴーティエなどの人気の人形作家の顔を持つオートマタ。サーカス人気により登場した、道化師や曲芸をするオートマタ。博覧会の影響で広まった異国文化の影響で作られた
日本や中国、アフリカ等をモチーフにしたオートマタ。動物のオートマタ。手品をするオートマタ。煙草を吸うオートマタ。最新の技術を駆使した人気の音楽とともに動くオートマタが作られたのです。当時のオートマタ作りは彫刻、絵画、音楽、服飾、そして機械工学も包括する総合芸術といえ、フランスの芸術史上においても独特の地位を占める存在となります。
ゼンマイ仕掛けで動くオートマタは、1914年の第一次世界大戦の勃発や電動オートマタの出現により、その製造の中止を余儀なくされます。しかしながら、ロボット技術が発展している現在にありながら、スイスやフランス、そして日本でも当時のオートマタの再現に挑戦している職人たちがいます。100年の時が過ぎてなお動き続けるオートマタの精巧な技術、そして芸術的な美しさは圧倒的な力をもって、私たちを魅了するのです。
Update Feb. 2008 |
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